月下星群 〜孤高の昴

    “ご意見無用♪”
  


凪の時間帯であるものか、
海は穏やかで潮騒の音ものんびりと朗らかなもの。
やや遠い沖合にいるこの船は、
金の真砂の中に浮かんでさぞかし小さく見えようが、
傍まで寄れば驚きの大きさ。
喫水線から上も高ければ、何門もの砲台を備えた厳つい武装も当然の装備。
帆には威容をたたえた海軍のマークが、猛々しくも描かれており、
甲板をきびきびと駆け回る船員らも、当然のことながら全員が海兵であり。

 「少佐はまだ戻られぬのか?」
 「は、連絡は受けておりません。」

グランドラインの後半部、
別名“新世界”と呼ばれる史上最凶な航路にあっては、
そこを統べる者なぞいないも同然。
世界政府の手足である海軍の大陣営をもってさえ、
目が届かぬ海域の方が多いくらい。
武力でも勢力でも、全容が見えないものほどおっかなく、
そんな脅威が次々ひしめく とんでもない航路であるがため。
中継地として存続しているよな他愛ない諸島などは、
早い者勝ちであれ海軍がしっかと把握している海域であるのなら、
監視を怠らなければそれで良しと来て、
特に将官クラスが仕切らずとも務まるらしく。
支部も間近く、海自体も穏やかな海域のこの辺りは、
少佐級の司令官が運用する艦で治めているらしく。

 “とはいえ、この動乱の昨今に、
  そのような構えを続けていてもいいものか。”

あの白ひげ海賊団と海軍総本部との戦い、
ある意味 世代交代の節目ともされた、
“頂上決戦”が起きたのが2年前。
結果として、ギリギリで負けはしなかった海軍だったが、
上層戦力は大きく疲弊し、本部自体も壊滅。
しかもしかも、
白ひげが睨みを利かせていてこそ収まっていたあちこちで、
無頼の徒が放埒を始めたその上、
超新星と呼ばれる最悪の世代の海賊たちが
正しくなだれを打って入り込んで来たものだから。
結構な騒ぎとなったのは言うまでもなく、
武力や人脈といったものへの地盤が弱い土地ほど
悲惨な蹂躙の憂き目に遭った。
こんな辺鄙な海域も最初のほうで散々に蹂躙されかかったが、
至近に本部での決戦とは縁のなかった支部があったのが幸いし、
疲弊してはなかった総力で当たったがため、
何とか追い払うことがかなったという順番だったほど。

  そして今、
  この新世界が新たな胎動に震え始めているという

あの波乱動乱の立役者の一人だったにもかかわらず、
海軍本部に謎の再来を成し、慰霊の儀式とも思える行動を示したそのまま、
世間からすっかり姿を消していた
麦ワラ海賊団のモンキー・D・ルフィ。
その名が久々に囁かれたかと思うや、
早速のように、シャボンディ諸島や魚人島など、
あちこちでそれは鮮やかな存在感を示し、
世界中を網羅する公式新聞紙上を騒がせるまでの、
本格的な台頭を始めたというし。

 “進行しつつある航路の噂を統合すると、
  ここいらだって安心してちゃあいかんというに。”

新世界ならではなログポースを使う以上、
ご多分に漏れずで
進行方向は三つの内から選べる身となっている彼らだろうから。
いわゆる順列組み合わせを考慮すれば、此処だって……

 「…っ。何か来ますっ!」

監視や索敵は目視が基本。
どんな能力者がいるとも知れぬ以上、
広大な水平方向や、海中からを警戒しての海面の監視のみならず、
高射砲のスコープを使い、空もくまなく見張るのが常識の警戒である中、
広角望遠による監視役だった海兵が、
歯切れがいいとは到底言えぬ、語尾が裏返った金切り声を上げる。
その方向には船影も見えぬというに、
何がと問うまでもなく、何かが風を切る風籟の唸りが鋭く迫り来て、

 「うわぁっ!」

何が当たったか、どあぁんんという重い衝撃を受け、
建物級の巨大な軍艦が上下に揺れる。
大きな波が立ち上がるのへ飲まれかかりつつも、
そこは鍛えられたる海兵の皆様、
動揺なんて一瞬で引っ込ませる頼もしさよ。

 「各自っ、警戒態勢に入れっ! いや、迎撃準備にかかれっ!」
 「砲台回せっ! 砲撃用意っ!」

何が当たったのか、被害状況を確認せよとしつつ、
後続の攻撃に備えて動けと、先手を打ったつもりだった司令官補佐だが、

 「うわぁあっ!」

何かが被弾したらしき方角から海兵らの喚声が上がる。
意気上がっての怒号というより悲鳴に近い甲高さであり、

 「どうしたっ!」

今度は何が起こったと、
司令補佐殿が首を伸ばしつつ、そちらから駆けて来た伝令に訊けば、

 「敵に侵入されましたっ!」
 「なんだとぉ!!」

くどいようだが船影は見えぬ。
そうまでの遠くから何か飛んで来たものがあったとして、
砲弾ならともかくも、

 「侵入?」

 「うわぁぁあっ!」
 「なっ、何だこいつらっ!」

果敢に立ち向かわんとそちらへ急ぐ海兵らだが、
まるで竜巻でも起きていての弾き飛ばされるが如く、
向かう端からという勢い、反発よくも押し戻されているらしく。
喩えではなくのこと、
総身を宙へ軽々と吹き飛ばされている手合いも少なくはないと来て、

 「い、一体 何奴が飛び込んで来たのだっ!」
 「わ、判りませんっ!!」

ただ、一直線に飛んで来た何物かが、八つ当たり気味に暴れ回っているような。
そんな止めどない破壊力がほとばしっている模様。
それと、

 「ウチの一人に印刷室と通信室を訊かれましたっ。」
 「印刷室と通信室だと?」

何だそりゃ、通信室はまあ判るが、
武器庫や操舵室だろう、普通…と思ったらしい司令補佐殿。
普通が通用しないのが、この新世界だというのがまだ判ってらっしゃらない。





     ◇◇◇



お話の始まりはとなると、時間的に やや逆上る。
ややというか…火種は数日前から既に燻り始めていて。

 『…っ、何なの此処いらの海域のファッションてっ

補給に立ち寄る島や港が、ちょっとした街の場合。
そこは女子だもの、着心地のいい新しい洋服もほしいとばかり、
繁盛してそうでセンスの善さげなブティックを見つけちゃあ、
出物はないかと山ほど買い込むのが恒例の航海士さんだったが。
どういう冗談か、この海域では妙ないで立ちがあふれ返っており。
ジャケットや上着の背中には、スカイピアで住人に見られたような翼が、
スカートやパンツの尻には、
ファーで作ったらしき長々した尻尾が必ず縫いつけられており。
そのくせ、色彩感覚は結構なサイケぶりで、
オレンジ色にセルリアンブルーの手書きストライプとか、
それは華やかな茜色にグラデのかかった紫の水玉とか、

 「スーツでもタンクトップでも
  袖口や襟ぐりに必ずレースフリルがついてるのとか、
  一体どこのどいつのセンスがここいら席巻してんのよぉっ

あまり着るものにはどうこうと主張しない方の男衆らも、
“こ、これは奇天烈…”と目を見張った着こなしが
当たり前のよに闊歩している町や港が3つも続いたものだから、
いい加減、ナミの我慢も限界を突破したらしく。

 「いやまあ、我慢した方だと思うぞ。」
 「うんうん、耐えるナミさんも素敵だったvv」
 「さすがに此処じゃあ、1軒目で店主を吊るし上げたがな。」

歯軋りものでお怒りのお嬢さんから、がっしと胸倉掴んで吊るし上げられ。
足も浮いてのぶらんとさせた、カトンボみたいに細身のオーナーさん。
滂沱の涙を流しつつ、
すっかりと投げた表情でお経のように呟いたのが、

 「だってしょうがないじゃあないですか。
  これが今年の流行、世界的ブームだと、
  海軍から直々のお達しがあったんですもの。」

 「はあ? 海軍から?」

これはあくまでも独り言ですと、
そっぽを向いたままのオーナーさんが言うには、

 「ウチは仕入れたものを並べて売る店ですからね、
  大手の店から買って来たのを並べてるだけ。
  数年ほど前から、どういう訳だか
  大手の店々でこういう傾向の画一的なのしか置いてなくなりましてねぇ。」

おじさんが言うには、強引な輩の手管はそんなものでは収まらず。

  自前のデザイナーズブランドだけ扱う店はもっと酷い目に

いきなり海軍の人らが押しかけて、
よく判らない旧の税金を治めてなかっただろうと難癖つけられ、
じゃあと金で払いかかれば、いいやそれでは処罰にならぬと、
置いてあった商品を全て持ってかれ、
代わりにとこういう手合いの服を押し付けられたとか…。

 「ぬあんですってぇっ!!」

こちとら、退屈な航海の中での唯一の楽しみが
好きな服のいろいろな着こなしだってのにっ!と。
いや他にも金勘定とかあるだろうという狙撃手さんからの声を、
肘打ち一閃でもみ消して雄叫び上げたのと重なったのが、

 「ふざけんなっ、こんのクソ店主っっ

少し離れた別の店からの、聞き覚えのある怒号。
実はそちらも、ナミさんのご不満と重なるように、
あちこちでイライラをつのらせていたシェフ殿で。

 「米の飯にオレンジジュースのぶっかけだとぉっ!
  しかも付け合わせが、イチジクの甘酢づけのせたピザだぁ?!」

お好きな方がいらしたら、罵倒してすいません。(う〜ん)
そう、立ち寄る港のどこもかしこでも、
何とも珍妙な料理やスナックが
“今 はやりっ”と銘打って絶賛大売り出しされており。

 「まだ それで美味いなら目からウロコだが、
  何でまた セイタカマグロの赤身の刺し身に
  緑茶キナコをゲイジュツ的に半分まぶすか、この野郎っ

おおう。(以下同文…)
百歩ゆずって、飯にマヨネーズ少々ならともかく、
ゆかりご飯へ 生クリームたぁどうゆう料簡か言ってみなっ、と。
いちいち聞くだけでもおぞましい、頓珍漢なレシピの数々が、
なのに“一番ウケてます”と、どこででも居並んでいたものだから。
これはとうとう、世間様が自分の舌が追いつけない領域に入ったかと、
ついつい現在位置を見失いかかったコックさんだったらしかったものの。

 『うあぁ〜、やっぱサンジの料理は安心出来るよなぁ。』
 『うんうんっ。』

ウソップやチョッパーはともかく、
たいがいの料理は皿でも机でも喰いかねない(料理?)ルフィまで、
いやに感動して褒めてくれたもんだから、
やや、これはやはりこっちの舌が確かなんじゃねぇかと、
安堵したそのままの勢いで、
まずはと入った店で出された同じよなラインナップへお怒り落とせば、

 「だってしょうがないじゃあないですか。
  これが今年の流行、世界的ブームだと、
  海軍から直々のお達しがあったんですもの。」

 「はあ? 海軍から?」

あれれぇ? どっかで同じこと言ってたお人がいませんでしたか?
こちらはしたたかに蹴り飛ばしたという、結構手ひどい仕打ちをされたというに。
それすらもう感じやしませんと言いたいか、
無気力もいいところという覇気のない眸で主人が言うには、

 「よそからおいでのお客人には、
  必ずお薦めの品として、このシリーズを出さにゃあならんのですよ。」

 「何だそりゃ。」
 「きなこ協会と結託してやがんのか?」
 「…そんな協会あるんでしょうか。」

ツッコミがてらに訊いたブルックに、軽くかかと落としを降らせたサンジが、
新しいたばこに火を点けつつ、

 「言っちゃあ悪いが、美味いとは到底思えねぇ。
  補給地だから取りはぐれはねぇってカッコで、客を舐めてねぇか?」

たとえば軍艦の給食で、しかも食材が限られていても、
も少し工夫するのがコックの仕事だ、と。
それが誇りのサンジとしては、
食材への冒涜みたいな真似が許せなかったらしいが、

 「守れなかった店は
  謂れのない罰が降りかかって営業停止にされるんですよ。
  それでなくとも
  食料搬入船の運用にも海軍がかかわってる町では、
  到底逆らえっこないんでさあ。」

とほほと言い過ぎてやせ細ったに違いない、
そんな胸板をなお凹ませる店主のおじさんの青色吐息へ、

 「…そーか、話は分かった。」

深々と吸い込んだ紫煙を、ぷはぁと吐き出した金髪白皙のミスター・プリンス。
ここいらを仕切ってやがる海軍とやらへ、物申すしてやんべと、
調理以外には使わぬとした大切な手のひらへ拳を打ち付けるほどの怒りっぷりへ、

 「…まあ、待て待て。」
 「気持ちは判ったけれど、まずは落ち着いて。」

年長組のフランキー兄貴とロビンさんが、
日頃には見ないほどいきり立った若手組のストッパー二人へ、
意味深なのがありありとしている“にっこり”を向けたのが昨日のことで。





月に一度、巡視船を出す以外は、
ここいらの諸島の縁にあたる沖合の一角に軍艦を常時停泊させている
とある一個師団があるそうで。
こちらの彼らがこの数週間ほどを連続して寄港し、
奇っ怪極まりない“ブーム”とやらに出くわして来たのも
その師団が監視している海域でのこと。

 『この一方的なブームの押し付けも、
  その師団を率いている少佐の差し金らしいの。』

 『下手な押し売りより性分(タチ)が悪いな。』

何しろ、住人の皆様にすれば逆らえない相手だし、
とはいえ、酷い商品だというのは彼らだってようよう承知。
こんな航路だけに、立ち寄る客層は一回のみのお相手が大半だとはいえ、
その後に立ち寄る先で何を言われるかは明らかで、
彼らが外海へもあれこれと話題を発信すれば、諸島の評判が落ちるのは必至だ。

 『そんなことして、何の利益があるって言うのよっ。』

真っ当な品を売らせた方が、評判もよくなって売り上げも上がって、
その方が何ぼでも搾取できるじゃないのよと、
お怒りのあまりとはいえ、ややおっかないことを言い出すナミへ、

 『そこは俺が訊いて回ったんだがな。』

その身に備わったあれこれへの馬力の糧がコーラだというフランキー、
なのでと、ブームの食い物へも触れずに済んだそのまま、
なんでまたそんな、誰ぞの尻馬に乗るような真似をと眇めがちに聞いたらば、

 『ここいらを治めてる海軍の、一等偉い人が子煩悩だそうで。』
 『…待った。』
 『言われずとも、何か全部判った気がする。』

 じゃあ何か?
 どっかで特に評判になった訳でもない、
 素っ頓狂なだけの食いもんやいで立ちってのは、
 そのお子様の考案したものだってのか?

  『ピンポン ピンポン ピンポン!!』

   (さあ皆さん、ごいっしょにっ。)


  
ふざけてんじゃねぇっっ




………という、まことに個人的と言うか、
彼らには珍しくも(あ、そうでもないか?)義憤じゃあないお怒りから、
たった1隻とはいえ、海軍の運用中の戦艦相手に、
積極的に喧嘩を売った麦ワラの一味だったそうでございまし。
船影さえ見えぬ遠くからでも、
誰かさんの“何とかのロケット”に便乗すればひとっ飛びが可能な一味なので。
威嚇的な帆も大きくて目印には持って来いの戦艦の甲板へ、
ズダダンと今回は無事に到着したそのまま、

 「さてと。」

三刀流の剣豪は、着流しにも見える衣紋の裾を割り、
屈強な下肢を踏ん張って腰を深めに落とすと、
その腰の得物の柄の上へすいと大きな手をかざす。
鷹揚な構えには不思議と隙はなく、
実質まだ何の武装もないままだのに、誰も飛び込めない覇気の厚さよ。
じりじりしつつ周辺を取り巻くしかない海兵らの描く輪の中で、
隻眼の左はそのまま、かっと見開かれた右の眼光閃くと同時、
甲板にぶんっと強い旋風が吹き抜けて。
何だ何だと気づいたときにはもう遅く、
雄々しき双腕のそれぞれへ握られた和刀が、
擦り上げるように練り上げた太刀筋の大波、覇気の圧に攫われてしまい。
どんな規模の台風が裳裾からげて駆けて来たのだというよな威力、
足元掬われ、その身が次々浮き上がり、

 「どわぁっ!」
 「ぎゃあっっ!」
 「どけってっ!」
 「お前こそ、しがみつくなっ!」

傾いてもない甲板から海上へ目がけ、
多数の海兵たちが なだれを打って突き落とされている始末。
そうかと思えば、

 「おらおらおらおら、とっとと道を空けねぇかっ!」

甲板へとついた両腕を軸にして、しなう御々脚の旋回蹴打が
ミキサーもかくのごとくと寄り来る海兵らを片っ端から叩きのめす。
ぐるんと1周をからげたそのまま、
ひょいっと軽やかに身を撥ねさせ、姿勢を戻すと、
今度は二段蹴りにて軍刀を数本もまとめてへし折り。
そうかと思えば、

 「レディに失礼なもん向けんじゃねぇよっ。」
 「うぎゃあっ!」
 「ひえぇええっ。」

しゃこんと向けられたライフルの束を、
高々と跳ね上げたつま先の横薙ぎ一閃で台座から粉砕し、
使いものにならなくする徹底ぶりよ。
そうやって強引に開けた血路を進むはロビンとルフィで、

 『そうね、通信室から讒言の電報を1本。』
 『でんぽー?』

何でも今日は、その少佐だか中佐だかっていう司令官が、
やくたいもない難癖つけに直々にあの島へ渡ってるそうだから。

 『その隙に、軍艦内へ集められているという
  不謹慎な服を横取りしてもいいと思うし。
  仮にも海軍がお薦めのレシピとやら、
  本部が健康食と推奨なさっているものかどうかと、
  問い合わせるってのはどうかしら。』

何ならマリージョアの王族専属カフェへ
ファックスを送って差し上げるのも手かもしれない。

 『今、これを食べなくては時代に遅れますよってね。』

ああでも、あそこの皆様、
権高いばかりで舌が肥えてるかどうかは疑問だから意味ないかもねと、
楽しそうに笑ったロビンだったので、そこは打電先を変えたらしいが。
艦内の狭い通路にやはりあふれていた海兵らを、

 「よっしゃ、任せろっ。」

それは楽しそうに腕まくりをしたルフィさん、
左右の手の平を順番こに突き出す“ゴムゴムの突っ張り”で
全員をとんとんとんと突いて突いて後じさらせ、
最後の一突きで一気に通路の壁ごと外へと突き飛ばして一掃し。
そうやってがら空きになった通路の先、通信室を占拠すると、
ロビンがそれは手際よく、
あちこちの回線へ並列通信とかいうやり方で、
一気に何かしらの文面を送ったそうで。

 「何が何やら判らんから、服の類いは全部まとめたぞ。」
 「おいおい、お前のセンスでまとめたなんて危ねぇな。」

 もしかしてナミさんが閉口しとった方の服じゃなかろうな。
 耳や尻尾はついてなかったが、何なら全部お前が着てみるか?
 ンだとぉ?…と、

逃げ腰が大半だとはいえ、
海兵さんたちが山ほどおわす現場だというに、
ちょっと目を離すと角突き合わせる双璧たちへは、

 「帰んぞ、ゾロ。」
 「コックさん、ほら手を。」

それぞれへの これ以上はない“聞く耳”を貸すだろお相手が、
さあ手をと愛らしいお手を差し出し、こっちへおいでと呼んで招いて。

 「ゴムゴムのォ〜〜〜〜〜〜、ロォケットぉ〜〜〜っっ!!」

ぐんぐんと延ばし延ばした船長さんの腕にて、
ひゅんっと風になったご一行が
無事に辿り着いたサニー号へ、島から向かう顔触れもいて。

 「お〜いっ!」
 「あ、チョッパー、ブルックっ。ナミもウソップも無事か?」

彼らが受け持ったのは、町の方にての陽動作戦。
港際の海軍の出張所とやらへ、
ウソップがバンブートラップで頑丈な生け垣をこさえたり、
それでも何とか這い出して来た追っ手を、
やたら瓦落多の積まれた、深い暗がりの垂れ込めた路地裏へと誘い込み、

 『よっほほほほほ〜〜〜、遊びませんか、皆さん。』
 『ぎょえぇえ〜〜っ!』
 『じ、地縛霊ぇ〜〜〜っ!』

誰かさんの幽体離脱で絡み付いて さんざんに脅したり、
そんな路地の上、
高い塀の向こうから伸びて来た巨大な手で摘まみ上げ、
町のテーマツリーの上へちょんと乗せて差し上げたりし。

 『よ、妖怪?』

不可思議な手合いのちょっかいかけというカッコ、
司令官とその護衛のご一行様を振り回しての足止めし、
仕上げに彼らが推奨のきなこシリーズ、
脂の乗ったとろろんブリへの山かけ きなこまぶしを、(ううう…)
羽根つき仮面に豹の尻尾つきレオタードという美女の手で、
丁寧にお口へと突っ込んで差し上げて。

 『ううう……っ。』
 『あらあら訝しいわね。ご自慢のレシピなんじゃありませんの?』

脂汗を流す司令官様へ、ほほほと妖艶に微笑って差し上げてから、
宙を飛んで来た幽体のブルックに運ばせて姿を消すという、
極めつけに不気味な消え方を演じたご一行。

 「キャ〜〜ンvvv
  これよこれ、こういうハイセンスな服が着たかったのよぉvv」

甲板の上へ広げられた、軽やか鮮やかな今時ファッションの山に
埋もれるぞとばかり、無邪気にダイブした航海士さんだったのへ、

 「でもナミ、半分は島の店へ戻さんといかんぞ。」
 「そうだぞ。代金も置いてこんと。」

俺ら略奪する海賊じゃあなかろうよと、
ウソップが言い聞かせ、チョッパーがつぶらな瞳で言いつのれば、
判ってるわよ〜んと浮かれたお返事が返って来。
その一方では、

 「うおぉおおっ!
  ブルックっ、貴様、何でナミさん抱きかかえてたっ
 「そういう作戦だったんですってvv」

よほほほほ〜vvとまんざらでもなかったらしい、ほんのり桜色の骸骨さんの
胸倉掴んでゆっさゆっさ揺さぶるコックさんが賑やかなのも まま通常運転か。

 「サンジそれより腹減ったぞ、何か作ってくれ。」
 「おうよ、きなこの厄落としだ、腕ぇ奮うから覚悟してなっ!」

それは威勢よく頼もしい腕をぶんと振るうシェフ殿なのへ、
当分 和風スィーツは出さないな あれはと、
ウソップとフランキーが頷き合ったのは言うまでもなくて。
…きなこの関係者の皆様、相すみませんです。(う〜ん。)

 義を見てせざるは勇なきなり、なんてのを、
 もしくは勧善懲悪なんてのを、
 胸を張っての声高に、推奨する気はさらさらないからと。

そういう彼らだってのを、思い切り発揮した今回の騒ぎは、
だがだが、
天竜人の有名なグルメ筋へ恥をかかせた廉
(かど)
某少佐が、ドレイク少佐から交替を任じられたという小さな事件として、
官報のすみっこへ載っただけだったそうな。





     〜Fine〜  14.03.18.


  *ロビンさんがどこへどんな文書を転送したかは、神のみぞ知る。
   誰がどう食しても、薦めてた親御が食しても
   目玉ひん剥く味だった“お薦めレシピ”ですから、
   真っ当な舌の人らからは、そりゃあ大目玉を食いもしましょうて。

   そして、アニワンではお馴染みの
   “ドレイク少佐”の名前が判らんくて、(ヒゲもじゃのあの人vv)
   初期の劇場版を2本も観直した末に、
   アニメオリジナルのナバロン要塞篇(空島篇のすぐあと)を、
   見たらのっけから出てんじゃないかいと、
   お懐かしい話ばっかの鑑賞会に
   ふけってしまってた土日だったりいたします。

   ※超新星世代にも似た名前の人がいるそうで。
    そちらはドレークさんです、微妙微妙。
    (あごに疵がある、元海軍士官とかどうとかいう…。)


ご感想などはこちらへvvめるふぉvv

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